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東西南北 春夏秋冬
ヨーロッパの旅
ブダペストの春(ハンガリー)
1996 年 5 月
14. トカイ・アスー・エッセンシア
初めてハンガリーを訪ねて驚いたことの一つは、予想以上にワインが美味しかったこと。以前は名前も知らなかった赤ワイン「エグリ・ビカヴェル(雄牛の血)」も、思いの外に美味かった。
しかし、なんと言っても、ハンガリーを代表するワインといえば、トカイだよねえ。もちろん、現地でも飲んだし、土産にも買って帰った。
運命の出会い
そして、ブダペストの旅の余韻も醒めかけた頃、つまりトカイのことも忘れかけた頃、ロンドンにある気に入りのワイン専門店でとんでもないものを見つけちゃったんだ。
それがトカイ・アスー(またはアスズ)・エッセンシア。これは当たり年にしか作られない上に、生産量も少ないから、滅多に手に入らないしろもの。
当然ながら、値段も高い !!! 1本 79.50ポンド(約 1万 7千円)。しばし悩んだ末(いや、正確には、悩んだふりをした末)、よしッ、買おう !!
だってねえ、次はいつお目にかかれるか、わかんないもんねえ。産地のハンガリーでさえ見かけなかったんだもの。ロンドンでも今までに見たことはなかったしね。今日ここで出会ったのは、運命に違いないよ。
夕陽を見ながらトカイ・アスー・エッセンシア 1993
それからしばらくたったある日、きれいな青空が広がっていた。会社を 5時に出た私が家に着いたのは 6時。いつものようにテラスに椅子と小さなテーブルを持ち出す。ここで夕陽を眺めるのが最近の私の気に入りの時間なんだ。
さて、準備を始めるか。グラスとコルク抜きを用意してから、適度に冷えたワインをテーブルに運ぶ。まずは記念撮影だ。コルクを抜いて、グラスに注ぐ。家内と私の気に入りのシャトー・リューセック(ソーテルヌ)と比べて、濃厚な黄金色。
では、始めますか。少し風のある屋外だということを差し引いても、香りは意外に弱い。しかし、口に含むと刺激的なほどに甘い。今までに口にしたことの無いほどの甘さ。
ところが、のどの奥に流し込むと、後味は極めてさっぱりしている。これこれ、この後味のさわやかさは、本物なんだよねえ。作った甘さじゃこうはいかないからね。
おもむろに口の中に唾液があふれ始める。それがエッセンシアの風味を一層深く味わわせてくれる。甘いけれども、軽くて爽やか。濃厚な色は重さを感じさせるが、実際の口当たりは極めて軽い。
わずかに梅酒のような、いやアプリコットのような、 ... しかし、少し温度が上がるとまた違った風味も感じられる。
複雑で不思議な風味。なるほど、これは本物だ !!
チーズやフルーツと一緒に楽しむのも良いだろう。しかし、私たちはテレビも音楽もつけず、ただ夕陽とエッセンシアを楽しんだ。
あっという間の 1時間。それも、滅多に無いほどの豪華な 1時間だった。
ブドウのエッセンス
ハンガリーのトカイ地方で収穫される貴腐ブドウ。それをカゴに入れて放置しておき、自然に流れ出る果汁を集める。但し、力を加えて絞るわけではないから、採れる果汁の量は少ない。30リットルほどの大きさのカゴから採れる果汁(つまり貴腐ブドウのエッセンス)は、ほんの 1.5リットルほどなんだそうな。
その貴腐ブドウのエッセンスを、数年間をかけてゆっくりと発酵させる。そうして出来上がるワインが、トカイ・アスー・エッセンシア。アルコール分は 5- 8 %という甘口白ワインだ。
かつて、フランスに君臨したルイ14世が「王様のワイン、ワインの王様」と評したと伝えられるワインは、こうして作られる。(ルイ15世と書いてある本もある。ホントはどうなんだろうねえ。)
プットニョッシュ
エッセンスが流れ出た後の貴腐ブドウに圧力を加えて搾り出した果汁を、130リットルほどの大きさの樽に入った普通の白ワインに加えて作るワインがトカイ・アスーと呼ばれる。
一樽に 6カゴ分の貴腐ブドウ果汁を加えれば、極甘口のトカイ・アスーとなる。これが 6 プットニョッシュ。5 カゴ分の貴腐ブドウ果汁が加えられれば、5 プットニョッシュ。もっと少なく 3 プットニョッシュのトカイ・アスーならば、中甘口と呼ばれるものになる。
その後
その後、ロンドンでもアスー・エッセンシアを見かけたことは無い。もちろん、日本に帰ってきてからは、見かける可能性も無い暮らしをしている。やはり、あのときの出会いは、運命だった。
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