東西南北 春夏秋冬 ヨーロッパの旅

旅行記 「初秋のブルゴーニュ」 (フランス)

ディジョン、ジュヴレ・シャンベルタン、ボーヌ、ペルージュ、リヨン

11. ジュヴレ・シャンベルタンのシャトー

ジュヴレ・シャンベルタンの村のブドウ畑に囲まれたシャトー

このグラン・クリュのワインの村ジュヴレ・シャンベルタンのはずれには、見事な木彫りで名高いサン・エニヤン教会がある。が、その入り口には鍵がかかっていて入ることも出来ない。

また村のあちこちに「ワインの試飲できます」の看板も多い。私の郷里である南予地方(愛媛県西南部)で「ミカンあります」のようなものだろうね。多過ぎて入り辛いほどだよね。

フランスのブルゴーニュ地方のグラン・クリュ・ワインの村ジュヴレ・シャンベルタンにあるシャトー

そんなこんなで目指したのは、ジュヴレ・シャンベルタンの村のはずれ、ブドウ畑の中に立つシャトー(上の画像)だった。

実は歴史あるジュヴレ・シャンベルタンのシャトー

このジュヴレ・シャンベルタンのシャトー、小さいけれども実は長い歴史があるみたい。築城は10世紀に遡るとも言われる。13世紀には改築されているらしい。

フランスのブルゴーニュ地方のグラン・クリュ・ワインの村ジュヴレ・シャンベルタンにあるシャトーの塔と農業機械

かつて入り口の跳ね橋の左右は塔で守られ、城の周囲には濠がめぐらされていたらしい。今の城は上の画像のようにブドウ畑と農業機械に囲まれているけどね。

ジュヴレ・シャンベルタンのシャトーのワイン・セラー

ジュヴレ・シャンベルタンのシャトーの中庭に入る。ちょうど10人ほどのグループがワイン・セラーの中に入ろうとしていた。これ幸いと私たちも列に続き中に入ろうとした。

が、それを遮った老婆。あんたら電話してないやろ。え・・・はい、電話してません・・・。しばし考えた老婆。ま、ええやろ。と私たちもシャトーの中に入れてくれた。

フランスのブルゴーニュ地方のグラン・クリュ・ワインの村ジュヴレ・シャンベルタンにあるシャトーのワイン・セラー

上の画像にあるシャトーのワイン・セラーに案内された一行は、老婆の説明を聞き、ワインを買えと薦められた。事前の電話も無く予約なしで入れてもらった私たちも、絵葉書とシャトーのワインを買う。グラン・クリュでもプルミエ・クリュでもなく、普通のジュヴレ・シャンベルタンのAOCのワイン。価格も安いし、手ごろなワインだったね。

しかし、あの老婆は世が世ならばシャトーのお姫様だったのかな。旅の後で調べてみたけど、このジュヴレ・シャンベルタンのシャトーは11世紀にはクリュニー修道会に寄進されている。しかも、西暦1789年のフランス革命の後、モン・サン・ミシェル修道院セナンク修道院と同様に修道院の財産として没収され、一般に売却されちゃったらしい。

そして今の持ち主のご先祖がシャトーを買ったのがフランス皇帝ナポレオン3世の頃だったそうな。というわけで、あの老婆は19世紀のブルジョワの子孫ではあっても、由緒正しい中世ブルゴーニュの貴族のお姫様というわけではないみたいだね。

レストラン「ラ・ロティスリー・ドゥ・シャンベルタン」でディナー

そして夜、ディナーの時間が近づく。今夜の店はランチを食べた店「ル・ボンビストロ」の姉妹店、いや本店とも言うべきレストラン「ラ・ロティスリー・ドゥ・シャンベルタン」なんだ。

出かける仕度をする前に、泊まっているホテルのマダムに尋ねてみた。今から「ラ・ロティスリー」でディナーなんだけど、ジーンズで行ってもいいかな。マダムの答は断固としたノン。あのレストランで食事をするならば、ジャケットとタイは必須なんだそうな。

ランチの気軽な雰囲気が印象に残っていたんだけど、さすがにレストランとなると違っているんだね。フランスのワインを勉強するのに古典的な教科書ともいうべきアレクシス・リシーヌの「新フランス・ワイン」(かなり古い本だけど)でも「ラ・ロティスリー・ドゥ・シャンベルタン」は評価が高かったんだけど、名高いグラン・クリュのワイン村ジュヴレ・シャンベルタンでも格の高いレストランなんだろうね。

ディナー・ジャケットを着て、ホテルから歩いて10分ほどでレストランに到着。ワイン作りの様子を再現してある人形たちを眺めながら地下へと降りて行く。やがてレストランの扉を開ければ、出迎えてくれた初老の紳士。そしてキビキビした動きの若者がテーブルに案内してくれた。

まずはワイン・リストを見よう。このグラン・クリュのワイン村ジュヴレ・シャンベルタンに来ているんだから、今夜のワインはブルゴーニュを代表する赤ワイン「シャンベルタン」に決まっている。問題はどのシャンベルタンにするかだ。ちなみに、店のワイン・リストに載っていたのはジュヴレ・シャンベルタンの村のワインのみ。それもシャンベルタンやクロ・ド・ベーズなどの大物ばかりだった。

フランスのブルゴーニュ地方のグラン・クリュ・ワインの村ジュヴレ・シャンベルタンにあるレストラン「ラ・ロティスリー・ドゥ・シャンベルタン」で飲んだシャンベルタン

そして選んだのは、家内が生まれた年のシャンベルタン。この年のブルゴーニュのワインは非常に良かったらしい。だから長く熟成して楽しむことができるんだそうな。他方で、私が生まれた年のブルゴーニュは最悪で、貧弱でやせていて、とっくの昔に消えてしまったらしい ・・・。ワインの話ではあるが、なんだか複雑。

ワインが決まれば、次は料理だ。レストランの主人と思われる初老の紳士が、こまめに世話を焼いてくれる。家内の脇で一緒にメニューを見ながら、ワインに合う料理を選んでくれた。じゃ、私も家内の料理を同じものを。

キビキビとした動きの若者がワインを持ってきた。コルクを抜き、しばらく静かにしておく。これだけ古いヴィンテージのワインでありながら、デカンタをしないというのも面白い。ワインを自然に味わうという姿勢なんだろうね。パリあたりでは意図的に作為的に酸化させて飲ませる店もあるけどね。

やがて若者が戻ってきた。家内が生まれた年のシャンベルタンを、別格のグラン・クリュのワインを私のグラスに注ぐ。ワインの縁の茶色が熟成を物語っているね。・・・え、若者が私のコメントを待っている。この私がこのジュヴレ・シャンベルタンの別格のシャンベルタンをテイスティングするのか。むしろワインが私をテイスティングしているような ・・・。

色は熟成。でも、香りは意外にも軽い。ひょっとして既に衰え始めているのか。グラスを口に運ぶ。いやいや、味は力強い。うん、良いワインだ。そんな私の眼を見て、若者が家内のグラスにシャンベルタンを注ぐ。緊張した。でも、この歴史あるワインの村ジュヴレ・シャンベルタンに来て、このレストランでのディナーならではの緊張が楽しかったよ。

さて、料理だ。まずはニンニクとオリーブ・オイルで炒めただけのキノコ。初老の紳士が籠に入ったキノコを持ってきて、取れたてだけど食べるかと尋ねた物。なるほど新鮮だ。シンプルな料理がぴったりのキノコ。

お次はエスカルゴ。中世ブルゴーニュの古都ディジョンで一昨日も昨日も食べたから、今日はやめておこう。でも、レストランの主人は譲らない。どうしても食べろと言う。そこまで言うなら。そのエスカルゴを一口食べて納得した。匂い消しのハーブの入ったソースなんて全く不要。むしろ一昨日も昨日も食べただけにこのエスカルゴの良さがわかる。これは絶品だ。店の主人の自信の逸品だったんだね。

三品目はチキンの赤ワイン煮。これは家内が食べたがった料理。ちょいと味付けが濃かった。でも、ワインに負けない料理にしようという配慮だったんだろうね。そして、様々なチーズ。デザートには生クリームのババロアにグレープ・フルーツのソースが爽やかだったね。リンゴのタルトも美味かった。そして最後にはコーヒーだ。

フランスのブルゴーニュ地方のグラン・クリュ・ワインの村ジュヴレ・シャンベルタンにあるレストラン「ラ・ロティスリー・ドゥ・シャンベルタン」の店の前にて

というわけで、今回の旅で最高のディナーを楽しみ、レストラン「ラ・ロティスリー・ドゥ・シャンベルタン」を出た。(上の画像は店の前の様子。)

ジュヴレ・シャンベルタンの村の道をのんびりと歩きながら家内と話したのは、どうしてこの素晴らしいレストランにミシュランの星が付かないんだろうねってことだった。

まずはワインの品揃えが極めて少ないことが一つかな。この店のワインは、ジュヴレ・シャンベルタンの村のものばかりだったからね。でも、この偉大なグラン・クリュのワインの村、ブルゴーニュのコート・ドールを代表するジュヴレ・シャンベルタンのレストランで他の産地のワインを飲む方が間違いだからね。

更には、料理の種類の偏りもあるのかもしれない。このレストランの料理は、地元の素材を活かすものばかりだったからね。でも、新鮮完熟の地元の食材を、余計な手間隙と調味料を使わずに味あわせてもらったんだ。この内陸のブルゴーニュのジュヴレ・シャンベルタンで、地中海産のカジキマグロが無いからといって何処が悪い。

つまりは、このジュヴレ・シャンベルタンの村のレストラン「「ラ・ロティスリー・ドゥ・シャンベルタン」のワインも料理も、ミシュランの基準とは合わないんだろうね。でも、この店にはミシュランの星以上の価値がある。ミシュランにはミシュランの意味があるけど、それだけでレストランは語れないってことだよね。



あああ、とっても力が入っちゃった。えらく長いページになっちゃって、申し訳ないです。ちょいとワインでも飲んで、休憩してね。次のページからは、ブルゴーニュの、コート・ドールの中心地、ワインの商都でもあるボーヌがテーマです。


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