東西南北 春夏秋冬 ヨーロッパの旅

旅行記 「ニース・エズ・モナコ公国とロンドン」

16. シャガール美術館で見た聖書の世界 -1.

シャガール美術館で見た「アブラハムと3人の天使」

さて、いよいよフランス南部ニースにあるシャガール美術館で、画家マルク・シャガールが旧約聖書の世界を描いた連作「聖書のメッセージ」を見ていこう。まずは「アブラハムと3人の天使」だ。

中央に描かれた3人の天使たちをもてなすユダヤ人のアブラハムとその妻のサラがテーブルの左奥に描かれている。アブラハムとサラの二人は、子供ができないままに年老いていた。ところが、3人の天使たちが言うには、間もなく二人に子供が授けられると。そして二人の間に翌年に生まれたのがイサクだった。

フランス南部ニースのシャガール美術館で見た「アブラハムと3人の天使」

シャガールはロシア(但し、今はベラルーシ)に生まれたユダヤ人だった。「アブラハムと3人の天使」というテーマは、ロシア正教のイコンによく見られるものらしい。

でも、その3人の天使たちが背中を向けて描かれているのは、ロシアのイコンとは異なり、フランスのキュビズムの影響なんだそうな。シャガールは西暦1910年(23歳の年)にフランスの首都パリに出て、そこで5年間を過ごしている。その頃の作品にはキュビズムの要素が出ていると言われる。但し、上の画像にある作品は、シャガールが最終的にフランスに移住した後の西暦1960年代のもの。

シャガール美術館で見た「生贄の場所に向かうアブラハムとイサク」

3人の天使たちのお告げの通り、年老いたアブラハムとサラの夫婦の間に生まれた男の子イサク。ところが、神はそのイサクを生贄として捧げるようにとアブラハムに命じた。アブラハムはイサクには何も教えず、ただ薪を背負わせて一緒に山道を登る。

フランス南部ニースのシャガール美術館で見た「生贄の場所に向かうアブラハムとイサク」

上の画像はそんなアブラハムとイサクの父子を描いている。シャガールのこの作品は西暦1931年のものなんだそうな。シャガールの二度目のパリ滞在の頃の作品だね。シャガールは一度目のパリ滞在の後の西暦1915年にロシアに戻った。そして西暦1917年のロシア革命の後、西暦1923年に二度目のパリに来ている。でも、まだパリに安住したわけじゃなかった。

シャガール美術館で見た「イサクの生贄」

山の上に到着したアブラハムとイサクの父子。そこに築いた祭壇の上で息子イサクを殺して生贄に捧げようとするアブラハム。そこに姿を見せた天使がアブラハムを止めた。アブラハムが神を敬い、神に忠実に従うことがわかったと。

フランス南部ニースのシャガール美術館で見た「イサクの生贄」

上の画像に見る作品も西暦1931年に描かれたもの。当時のシャガールはパリにいた。でも、やがて第二次世界大戦が勃発し、パリもドイツによって占領される。ユダヤ人だったシャガールは、ナチス・ドイツの迫害を怖れてフランスを逃れ、アメリカに亡命したんだ。

シャガール美術館で見たもう一つの「イサクの生贄」

下の画像に見える作品も、上の作品と同じくイサクを生贄に捧げようとするアブラハムを描いている。このイサクの生贄は、キリストが十字架にかけられることと通じるものがあるらしい。下の画像の作品の右上には、十字架を背負ったキリストも描かれている。(見難くて申し訳ないけど。)

フランス南部ニースのシャガール美術館で見た「イサクの生贄」

シャガールがアメリカに亡命して3年後の西暦1944年、フランスの首都パリが連合国軍によって解放された。その翌年にはドイツの首都ベルリンが陥落している。シャガールがフランスに戻ったのはその2年後のことだった。そして上の画像にある作品「イサクの生贄」を描いたのは、西暦1960年代のことだった。その時点でのシャガールは既にフランス国籍を取得していたんだそうな。

余談ながら、このページで何度も取り上げられているアブラハムとイサクなんだけど、新約聖書の冒頭にある「マタイによる福音書」のイエス・キリストの系図にも登場している。アブラハムやイサクの子孫からダヴィデ王やソロモン王が出るんだけど、更にその子孫の中にイエス・キリストがいるとされている。つまり、イエス・キリストはユダヤ人の王たるべき血筋の生まれだとしているわけだね。


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