スティッチアーノ駅前の様子列車に乗り間違えてやって来たスティッチアーノ駅の待合室を追い出された私たちは、スーツ・ケースを引きずって駅前に出た。客待ちをしているタクシーなんて間違ってもいない雰囲気だ。落ち着けそうなカフェも見えない。
さまよえる異邦人の私たちを受け入れてくれそうなのは、夏の海水浴場の海の家のようなヨシズ張りのバー(上の画像の道の向こうに見えている)だけだった。
スティッチアーノ駅前のバーにてスティッチアーノ駅の前の道を横切り、向こう側のバーに向かう。6年間も使い続けているスーツ・ケースの馬鹿になっている車輪が悲鳴をあげてバーの人々の眼を私に向けさせている。バーの中にはテーブルを囲んでカードで遊ぶ男たち。バーの主人は絵に描いたようなマダム。これじゃまるで西部劇だ。悲鳴をあげ続けるスーツ・ケースを片手にバーの入口に立った私は、まるで流れ者のガンマン ・・・ 。 いやいや、私は決闘を望んでいるわけじゃない。冷えたビールが飲みたいだけだ。帽子を取ってテーブルの上に置きながら、明るく元気な声で「ボン・ジョルノ」と私。軽く会釈を返してくれる人もいる。カードを持つ男たちの手が動き始めた。凍りついていたバーの時間が融けて再び流れ始めた。 今どきイタリアで日本人なんて珍しくもない。でも、このスティッチアーノの街に日本人がやって来たのは初めてのことかもしれない。少なくともこのバーでビールを飲んだ日本人は私が最初に違いない。戦国時代にイタリアまでやって来た天正遣欧少年使節に匹敵する珍客なわけだ。そんなことはともかくだ、まずは冷えたビールをくれ。
ちょっとだけビールを飲んで咽喉を潤おした家内は、椅子に座って下を向いている。ときおり顔を上げては「怒ってないよ ・・・ 」と言うんだ。バーの男たちの時間は融けたけれども、家内の時間は凍りついたままみたい。ここは余計なことは言わずに黙ってビールを飲むのが賢明だね。
ようやく列車が来たそれから2時間。駅前のバーを出た私たちは、スティッチアーノ駅のホームに立つ。
遠くに列車が見えてきた。これで再び旅を続けることが出来るよ。
列車から眺めたトスカナ地方のひまわり畑列車に乗り込み、シエナに戻る途中で、一面のひまわり畑(下の画像)を眺めることができた。
このひまわり畑の風景を見ただけでも、列車に乗り間違えた価値があったよね。家内は返事をしてくれなかったけど ・・・ 。
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